仏教思想と仏教カウンセリング(Buddhist counseling)5:西洋的自我と東洋的無我の統合の理想
この記事は、[前回の仏教カウンセリングの項目]の続きになります。 仏教カウンセリングにしても牧会カウンセリングにしても、『宗教的カウンセリング』であって『宗教そのもの』ではないという認識がそこにはある。そのため、宗教的な世界観や宗教の理想をクライアントにただ押し付けるようなものであってはならず、クライアントが直面している現実的な問題や苦悩を解決していくためにはどうすれば良いのかという『プラグマティック(実用的)』な視点をまず第一に持ってくることになる。
キリスト教とうつ病
仏教は悟り・解脱に象徴される『自己超越』を目指す宗教であり、大いなる観念との合一体験を目指す"トランスパーソナル心理学"との親和性を持っていたりもするが、仏教カウンセリングでは自己超越だけにこだわらずに現実的な問題解決のほうが優先されることになる。
仏教カウンセリングでクライアントの悩みを理解して、その悩みの解決を共に考えていく場合には、仏教の人間の苦悩についての基本教義としてある『四苦八苦』の理解とその解決法を探す態度がクライアント援助のヒントになることも多い。四苦八苦は『生・老・病・死』と『愛別離苦・怨憎会苦・求不得苦・五蘊盛苦』から構成される人間の世俗的な苦しみの象徴である。
痛みと癒しについての聖書の詩
そして、愛している人と別れなければならない苦である"愛別離苦"、嫌いな人と顔を合わさなければならない苦である"怨憎会苦"、求めているものが得られない苦である"求不得苦"、五感の感覚の不快感から発する苦である"五蘊盛苦"などは、実際のカウンセリングでも頻繁にクライアントの口から聞かされることになる悩みの典型的なものであり、仏教的な実践法や認知の転換がそれらの苦悩の軽減に役立つことも多いのである。
ウィチタフォールズ、テキサス州の猶予生活
仏教カウンセリングという理論・技法に注目が集まりだすきっかけになったのは、藤田清『仏教カウンセリング(1964)』であるが、宗教カウンセリングの文脈では"西欧的な自我・神の救済"と"東洋的な無我・自己救済"との対照性が着目されることがあり、『自我と無我の統合・自己超越と自己成長とのバランス・現実的な問題解決の方略』などが今後の宗教的カウンセリングの大きな課題になってきている。
仏教カウンセリングの理論と世界観を考えるに当たっては、実存主義の哲学者であるフリードリヒ・ニーチェの『ルサンチマンと超人思想・永劫回帰・然りの自己肯定』なども参考になる部分が多いと思う。精神分析と仏教思想の相関性については、[精神分析の『快感原則・現実原則』と仏教思想の『涅槃寂静』]も合わせて読んでみて下さい。
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